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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(オ)698号 判決

理由

上告代理人山田敦生の上告理由について

原判決は、黒木スミ子が本件土地を時効取得した旨の上告人の主張に対し、第一審判決理由第二項を引用したほか、

1  本件土地が黒木モンの所有名義となつた明治三二年九月一五日当時、モンの父黒木市太郎は生存していて、市太郎には長女モンのほかに長男吉蔵、二女トラ、三女ヒデ、二男徳一があり、本件土地上に黒木家の旧建物が存したが、吉蔵は教員をしていて黒木家を出て他に居住していた。

2  明治三五年に市太郎が死亡し、モンはトラとともに本件土地上の旧建物に居住して茶店を出していたが、やがて徳一の子の恒男を同居させて生活を共にし、大正一三年一月一一日死亡するに至つた。モン死亡後、トラは恒男と本件土地上の旧建物に居住していた。ヒデは、昭和三、四年ころ右旧建物を取りこわしてその跡に現存の建物を建築し、一時満州に移つたこともあつたが、昭和一四年六月二八日死亡するまでトラ、恒男とともに右建物に居住していた。ヒデ死亡後は、トラと恒男が右建物に居住していたのであるが、ヒデの養子吉清(昭和二〇年八月一八日死亡)と結婚していたスミ子が、終戦後の昭和二一年九月一日、満州から引き揚げてきて同居することとなり、スミ子はやがて佐賀市内に世界救世教の布教所を設けて同所と本件土地上の住居とをゆききしていたが、昭和三二年五月一四日恒男が、昭和三五年一二月一四日トラが、昭和四二年七月二四日スミ子が相次いで死亡するに至つた。

3  本件土地とその地上建物の占有使用関係は右のとおりであるが、地上建物のための本件土地使用の法律関係については、これを明らかにする資料がない。

4  上告人はスミ子の姉であり、他方、被上告人はモンの養子三浦ノブの子である。

以上の事実を認定したうえ、「スミ子は建物所有の意思でその敷地である本件土地を占有してきたものと推認できるが、ただ、同女は本件土地の所有者が被上告人であると認識していたもので、客観的権限の性質上、土地所有の意思はなく、他主占有であつたと推認するのが相当である。」との一審判決理由部分を引用した。

しかしながら、スミ子が建物所有の意思で本件土地を占有してきたことは、前記確定事実から推認できるけれども、同女において本件土地の所有者が被上告人であると認識していたことは、原審の確定していないところであるから、原判決には、その点で理由不備又は理由齟齬の違法があるものというべきであるばかりでなく、民法一八六条一項によると、占有者には所有の意思が推定されるから、建物所有の意思でその敷地部分を占有する以上、反証のない限り、その敷地部分について所有の意思を推定すべきところ、原判決が、スミ子において本件建物所有の意思でその敷地である本件土地を占有してきたことを認めながら、右推定を覆すに足りる反証の有無についてなんら言及することなしに、客観的権限の性質上、同女に土地所有の意思がなかつたと推認したのは、民法一八六条一項の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、その違法は判決に影響があるものといわなければならず、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、以上の点につきさらに審理を尽くさせるために、本件を原審に差し戻す。

(裁判長裁判官 本林 譲 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 栗本一夫)

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